今回は書評です。ネタバレなので、実際に読みたい方は注意です。
なかなか衝撃的なタイトルですが、この本は世界の「加工トマト産業」についてのルポルタージュです。
「トマト加工産業の光と闇」を中国とアメリカにスポットをあて、イタリアやフランス、そしてアフリカまで、どうやって流通し、その最終はどういうことになっているかまでを細かく追いかけています。
ボクたちがパスタを作るとき、また、スパイスカレーを作るときになくてはならないものも「トマト缶」です。
だいたいスーパーで安ければ100円くらいで1缶購入できますよね。
まあ、こういう「格安のトマト缶」が、日本で作られているものではないってことは皆さんそう思ってはいると思います。
このトマト缶は、裏ラベルを見て「お・・イタリア産か」「・・・中国産ではないんだな」ということで購入したものなんですが、

実はこれ、「中身は中国産」なんです。
つまり、このトマト缶は、缶の部分は「イタリア産」で、中身のトマトは「中国産の濃縮トマト」を使ったトマト缶ということになります。
「加工トマト」産業の実態
本では、特に中国の国家絡みでのトマト産業への取り組みを中心に扱っています。
「新疆ウイグル自治区」にある、中国の加工トマト産業の畑と工場を取り上げています。

格安のトマトを加工するための格安の労働力として、反政治犯400万人を労働者とし、労働者は早朝から晩まで休みなくトマトを収穫し続け、ほぼ無賃に近い待遇で働かされている(ほんとならヤバいね)。
格安トマトの生産は超格安賃金から、ということですね。
そして、加工トマトは、加工のみに使われるトマトで、生鮮食品売り場に並んでいるトマトとは似て非なるものです。

短期間でよく育ち、よく実をつけ、もともと水分も少なく、衝撃にも強く、病気に強い。
そういうトマトを人工的に作り上げ、「3倍濃縮トマト」に加工します。
3倍濃縮1キロのトマトを作るのに8キロの加工用トマトが必要ですので、収穫量は莫大です。それゆえの超格安労働力確保のための反政治犯の大量確保というわけです。
ウイグルで作られた3倍濃縮トマトは、ドラム缶につめられ、世界中をめぐっていきます。

アフリカ市場の70~90パーセントはこの中国産加工トマトが占めます。
ヨーロッパでは、トマトといえば本家のイタリアに中国のトマト再加工工場があり、ここで中国から輸入された3倍濃縮トマトはイタリアの加工業者により2倍に薄められます。
さらにトマトはさまざまな商品に加工されていきます。
ケチャップ、タバスコ、トマトジュース、トマトホール、トマトピューレ、トマトペースト、バーベキューソース…
さまざまなレトルト商品にいたるまで、です。
イタリアの加工業者としても、3倍のトマトを仕入れ、2倍に薄めることで量を増やせますので、儲かります。
そして、缶には「イタリア産」とネーミングされ、世界に流通していきます。
加工トマトの価格で太刀打ちできないイタリアやフランスの地元の古くからの加工工場は倒産し、中国の加工業者のシェアがどんどん高くなります。
さらに、安い労働力のアフリカ市場にも流れていきます。
ウイグルでタダ同然に作られた加工トマトには価格で太刀打ちできず、農家はつぶれます。
農家は難民となってイタリアなどに流れ、そこで奴隷扱いされている(これもほんとならヤバいね)。
という現状なども記載されています。
1缶のトマト缶からは想像もできなかった物語がたくさん記載されています。
トマト缶大好きのボクにとってはかなり衝撃的でした。
中国の「一帯一路」の勝利
中国は、中国が世界経済の覇権を目論む「一帯一路」と名づけられた戦略を展開中です。
食品の中ではこの加工トマトに重きを置き、長年周到に計画実行してきたようです。
加工トマト産業では世界で1番の国になりました。
アフリカのシェアも、その低価格に物を言わせ独占状態です。
トマトだけではなく、工業製品も同じくで、Appleのiphoneなども中国での製造ですよね。
携帯電話や車などは、「国際的に」価格が決められるので、このデフレの中でも値上がりが続いていますよね。
人件費も中国が安いということでももうなくて、それでも中国で生産するのは、人材(エンジニアなど)がすぐに集まるからとも言われています。
食料、工業、人材、あらゆる分野で中国の国際経済への拡大は広がっています。
この本をよんでいると、中国の国家戦略が現時点では中国の思惑通りに進んでいるということでしょうね。
ブラックインク
ブラックインクと呼ばれる濃縮トマトがあります。
古くなって酸化し、腐敗した濃縮トマトで、色は真っ黒だそうです。
このブラックインクは、アフリカで流通しています。
そのままでは食べれないので、このブラックインクにさらに食品添加物を足し、赤く着色して販売するのです。
加工トマトは、その流通の末端でも、ブラックインクとして売られています。
そして、その中国のブラックインク加工工場はガーナにあります。
労働者は月に240時間労働し、給料は約1万円。時給、40円。。?
ブラックインクを再生させ販売可能な加工トマトにするレシピは、ブラックインク31パーセントに対し、添加物69パーセントだそうです。
食の安全、労働者の権利、いろんな大切なものは、全て「安さ」の正義のもとに完全にないがしろにされています。
身の回りの、格安加工品を見る目が180度変わる本でした。
加工食品、要注意ですね。怖いなー
まあでも、この記事も、もとの本も、情報です。
信じる信じないも自分自身なんですが、ボクはいろいろと疑ってみるようにはしています。
だって、原材料が間違っていたらどんな調理しても無駄ですもんね。
生のトマトをオーブンレンジや天日乾燥でドライトマトにしたことある方ならわかりますが、「濃縮させる」って、なかなか手間なんですよね。
楽しいんですけど、時間がかかる。
とりあえずは、よいトマト缶を探すしか無いみたいですね。